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キネティック・ポエトリー

膨大な数の部品によって組み上がった時計の構造。何千行にもわたるプログラミングのソースコード。何時間もの熱戦の末、碁盤上に現れる白黒の模様。あらゆる人工物や営みのなかには、複雑で難解な神秘が秘められている。雑駁とした時計の部品の連なりは、各々に役割を与えられた機構である。延々と続くプログラムの文字列は、処理を実行するまでの果てしない試行錯誤の痕跡である。混沌とした盤面を描く石には意図が込められ、全ての石は連動して組織を形作っている。無秩序に見えるそれらを構成する一つ一つの要素は、確かな意味を持ってそこに存在している。混沌と秩序のスレスレなせめぎ合いの果てに顕現する複雑さは、形容し難い美しさを秘めている。

人間の営みや人工物の複雑さ、それは私たちそのものが難解であることに他ならない。人は喜怒哀楽や様々な思惑を抱えて生きている。理性や法という秩序に従う一方で、欲望や衝動という無秩序なものに突き動かされる。極めて難解で、理解しがたい。理解しがたいがゆえに美しい。荘厳な景色を目の当たりにして流れた涙の理由を、誰が説明できるだろうか。あの日あなたに向けられた心無い言葉の真意を、誰が説明できるだろうか。あなた自身のことでさえあなたは完璧には理解できないだろう。喜びも悲しみも、決意も葛藤も、本音も建前も、誠実も欺瞞も。希望も絶望も。全てを背負い、あらゆる感情に翻弄されても、それでも生きていく人間の大いなる難解さを礼讃したいと思った。

複雑な人間模様が描かれた文学作品、スコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」を用い、登場人物たちの思惑や関係性をキネティックに表現した。秩序を保つように、文字を組み上げた。混沌を生み出すように、文字を壊した。散りばめられた言の葉が、登場人物の動きに連動するように文字となって立ち現れては溶けてゆく。連綿と続く言葉の応酬の果てに、張り詰めた破片はほつれるように解け、一つの星雲となり、やがて雑踏の中に消えてゆく。長い長い試行錯誤の末に、カオスとコスモスが織りなす小宇宙が生まれた。

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